5.偽造(装)された物証|裏木戸を通ることができたのか

警察の証拠写真

警察の証拠写真

判決では、袴田さんは立木を登って現場(専務宅)に侵入して金品を物色中、専務一家に発見され、4人を次々に殺害した後、裏木戸から脱出し、工場からガソリンをバケツに入れて裏木戸を再侵入し放火、その後逃走のために裏木戸から再脱出、と合計3回にわたって裏木戸を通過したと認定しています。
その裏木戸は左右2枚の戸でできており、戸の上下に留め金式の鍵と中央にかんぬきがある造りです。事件直後、下の留め金ははずれていたものの、上の留め金はかけられたままでした。かんぬきは焼けて折れていました。そのため、袴田さんは上の留め金をかけたまま戸の下のほうをめくり上げて脱出、侵入をくりかえしたとされたのです。
しかし、食事や仕事で毎日通る通路にある裏木戸です。木戸の造りも留め金の位置もよく知っており,戸をめくりあげて通るなどという不自然な行為をする必要はありませんでした。無理にこじ開けなくても、上の留め金をはずして出ればよいのですから。
起訴後、警察はこっそりと実験を行い,上の留め金がかかった状態でも人が通れるという報告書をつくりました。そして,写真3枚を添付した実験の報告書に基づいて,裁判でも警察官が「自白の通りにやったらできた」と証言したのです。ところが、その写真には,肝心な上の留め金部分が写っていませんでした(写真①)。これでは,留め金がかかったまま,人が裏木戸を通過できたかどうかはわかりません。にもかかわらず,裁判所は,裏木戸が袴田さんの逃走口であると認定してしまいました。

疑問をもった弁護団は,専門家に依頼して戸のたわみの力学実験を実施し,その結果,上の留め金をかけたままの状態では,人が裏木戸を通ることはできず,無理をすると留め金のネジ釘が抜けてしまうことがわかりました。事実,留め金の位置の直ぐ下に,ネジ釘が抜けた穴が残っているのです。警察の行った実験でも留め金のネジ釘が抜けていたのです。
さらに写真工学の専門家が,警察の実験写真のコンピュータ解析をした結果,写真のような人の身体が入る程度のすき間がある状態では,上の留め金がかかっていることはありえないことがわかりました。
そこで,弁護団と支援団体が,カメラの位置,撮影する角度などをかえて,警察官が写真を撮影した方法を検討したところ,やはり上の留め金をはずさないと同じ写真は再現できないことがわかりました(写真)。こうして警察の写真は,上の留め金をはずしておきながら,その部分を隠して写真を引き伸ばしたか,写らないように撮影されていたことが明らかになったのです。